23歳。ラジオ体操。

23歳。学生。
「学生」って肩書きが、あと半年後には「無職」に変わる。
ゼロだね。ゼロだよ。
君は、何してきたの?
みんな、頑張ってる。
みんな、頑張ってる。見比べるのは、辛いね。
考えないわけにはいかない。
スポットライトに照らされて、友達が歌っていた。そんな彼の姿は眩しくて…
僕は暗闇の中にまぎれた。

「小さなものを見つめていると、生きてもいいと思う。
雨のしずく……濡れて縮んだ皮の手袋……」

箱男」の中の一文。

自分で自分を慰めなくちゃ、とても無理だ。
さみしい僕には、なんだか幽霊が見えそうな気がする。

あ!今、神様が匙投げた音が聞こえた!
……無視しよう。       決められてたまるか。

夏休み、九州の実家に帰省しました。
相談のためです。進路の相談。
僕はむしゃくしゃして、かき氷を食べました。レモン味のかき氷。

夏の九州は暑くてですね、暑くてですね、山にはセミがやかましく泣き喚いていてですね、たまらない気分になります。

なんだか、生まれたときからずっと、この町にとどまり続けていたように思えます。
ぐるり周囲を見回しても、ときどきコンビニ、あとは山。

後は野となれ山となれ、と、うそぶいても見たのですが、最初から野と山ばっかりで、僕はそこから一歩も外に踏み出していないのでした。

ふるさとにはなんにもありません。
ふるさとは、優しくて、暖かくて、なんにもありません。
叫びは木霊となって、遠くの山々に吸い込まれていきます。

一晩中、気が揉めて、気が揉めて、眠れなくて、爽やか過ぎる朝を迎えました。
思い切って窓を開けて、外に飛び出し、透き通る空気の中、僕は朝のラジオ体操を聞きました。
ベランダに座って、タバコを吸いながら、朝のラジオ体操を聞きました。
朝もやのなかに懐かしいメロディが響きます。
ためしに体操してみました。いくつか忘れていた運動もあったのですが、だいたい大丈夫でした。
だいたい踊れました。腰がパキキと鳴りました。
ばかだなぁ、と思いました。
大丈夫じゃないだろう、とも思いました。

たぶん、僕は元気なんだ、と思いました。
僕はなんとか元気です。

しだいに夢から覚めていく空を見ながら、僕は「朝だ。寝なきゃ」ととぼけてみました。