趣味? 趣味は深夜徘徊。

きつく吸った煙草を、空き缶の口の中に落とす。火の粉が底に残ったビールをジュッと焼く。それがどことなく悲しく聞こえてしまうのは、僕の心が曇っているせいなのか。

健康には気を使おうと思い、スーパーで野菜サラダを買った。ドレッシング入りのやつだ。もう何もかかってないサラダは食べたくない。抜かりはないはずだったのだが、今度は割り箸をもらってくるのを忘れていた。仕方がないから、家にあった紙パックのコーヒーからストローを引き抜き、それを伸ばして箸代わりにして食べた。

当然上手く扱えるはずもなく、取り落としたキャベツの千切りが床に散らばった。
コーンの粒も落ちたのだが、もったいなくて、拾って口の中に入れる。窓から、通りを行く学生達の笑い声が聞こえてきた。

・・・。
負けた 負けた と、胸の中で声がした。
負けた、だと? ハッ!戦った覚えもないくせに何を言っていやがる。

最近、夏目漱石の「それから」を読んだ。今更になって漱石を読んでいる自分。それでも文学部っていうのが恥ずかしい。

「それから」は、最初から最後まできつい内容だった。主人公の代助は、すごく頭が切れるんだけど、働かずに親の仕送りで生計を立てている青年だった。今で言うと、ニートってことになるんだろうか?どうなんだろう。当時と今では、また違ったものなのかもしれない。だけど代助の置かれた状況は、僕には他人事に思えなかった。主人公に投げかけられた台詞が全部、自分に向けて言われているように感じた。悲鳴をあげたくなる。耳を塞ぎたくなる。でも、目を背けちゃいけないように感じた。だから、そんな台詞を眼にする度に、ページに付箋を貼っていった。あっという間に文庫本は、黄色い張り紙でいっぱいになった。

「――然し、そんな真似が出来る間はまだ気楽なんだよ。世の中へ出ると、中々それどころじゃない」
「そう人間は自分だけを考えるべきではない。世の中もある。国家もある。少しは人の為に何かしなくっては心持のわるいものだ。御前だって、そう、ぶらぶらしていて心持の好い筈はなかろう」
「だから遊んでないで、御尽くしなさいな。貴方は寝ていて御金を取ろうとするから狡猾よ」
うわあ。もう百年も昔の文章なのに、リアルに痛みつけられる。焦る。焦る。
慌ててウィンドブレイカーに着替えなおし、夜の街へと飛び出した。
誰もいない二車線道路を、限界まで走りぬいてやろうと思った。
放浪宇宙人ペガッサ星人みたいな気分。闇の中をひた走る。どこまでもどこまでも。
呼吸が弾み、背中に汗がにじむ。畜生、苦しいな。歯を食いしばる。まだだ。まだ、耐えてやる。僕は行きたいんだ。この暗闇の向こう側に。