秋の空に浮かぶ宇宙ゾンビの陰毛

季節が移り変わるのは本当に早いものだ。大学のキャンパス内でも、Tシャツ一枚の人はさすがに見なくなった。気の早い人はもうマフラーを巻いたりしている。時間は待ってはくれない。
さて、今日は久しぶりに学校の体育の授業に出たんだけど、体育を取ってる人たちはやっぱしスポーツできる人ばっかりでまじで焦る。っていうか二回生で先輩なのに、一回生に敬語使っちゃってる自分にほとほと呆れる。
普通の人と会話する際の言葉のチョイスが難しい。普通の人が異星人にみえるよ〜。怖いよ〜。
そういえば昨日の深夜に奥山くんから電話がかかってきて、「オクナくん、やばいよ俺、宇宙ゾンビにねらわれてるよ〜」と、奥山くんは叫んでいた。彼もまた、異星人に命を狙われているらしい。大丈夫だろうか。
そういわれてみれば、僕たちの身の回りに漂っているこのネガティブな空気はきっと宇宙ゾンビの陰謀かもしれない。 陰謀 陰謀 陰謀 陰毛・・・。
そうだ。宇宙ゾンビの陰毛が、僕たちをマイナス思考に縛り付けているんだ!二十歳になって新たな発見をする。

午後の授業で、志賀直哉の小説についての研究発表があった。みんながみんな、てきトークかますのにぶち切れそうになる。
で、反論したろ、と思って挙手してもスルーされちゃったりで、怒りのあまり尿が漏れそうだった。
みんな死ねばいいのにー!!
いや、いっそのこと僕がこの教室の窓から飛び降りてやって死んでやろうか?三階の高さだし、頭からダイブすればかなりの高確率で死ねる。
授業が終わって廊下に出ると、奥山くんが10メートル下の地面を見つめながら煙草を吸っていた。
「どうだった?今日は」
「だめだった。体育の時間にはみった」
「自然体でだめな毎日だよな〜」
煙草の煙が秋の空に溶けて消える。10メートル下の中庭では、ベンチに腰掛けて男と女が仲良くだべっている。彼らは青春真っ盛り。どうして僕らはこうなってしまったのだろう。ああ、十メートルの距離をひしひしと感じるよう。
誰か、誰でもいいから、この現状を誰かのせいにしたい。甘ったれた願望だけど、そうやって言い訳していたら、なんとかやっていけそうな気がする。みんなきっとそうやって生きていくんだ。
「あ、なんか、降ってくるよ」
奥山くんが空中を指差す。見上げれば一本の藁みたいなものが、視線の先をふわふわ漂っている。あれって・・・・
宇宙ゾンビの陰毛?
二人、顔を見合わせる。ほんとに降ってきたよ。宇宙ゾンビの陰毛。
ぎゃはは!おもわず爆笑。その不思議な陰毛は風に吹かれて視界から消えたけど、僕にはなんだか奇跡のように思えた。