小便男との出会い

近くのドラッグストアにて買い物した帰り道、マンションの駐車場で立小便をしている学生(テニサーだと思う。ラケットしょってたから)に出くわす。犬も歩けば棒にあたるとよく言うが、こんな出会いは極力避けたい。だって、お互いに気まずいもの・・・放尿中のA君のまわりには、サークル仲間のB君、C君がいて、B君とC君はなかなか終わらない長小便のA君を見て、ぎゃははと爆笑していた。ああ、やめてくれよう。つい最近までの自分を思い出すよう。
思えば一人暮らしを始めてから、仲間内だけでうるさく騒ぐのが常だった毎日だった。
周囲の目線を気にせず、っていうかむしろ意識して、よけいに大声で騒いでいたものだった。
例えば奥山くんの家で、深夜にも関わらずロケット花火を対岸の民家に発射したときも、隣のマンションの住人が窓開けっ放しで公開オナニーしているのを発見したときも、だらしなくゲラゲラと馬鹿笑いしたもんだった。
そうか世間の人々は僕たちをこんな目で見ていたのか。
他人として見てみると、ものすごくあさましく眼に映る。いや、あさましいっていうか痛々しい(人事には思えないから)。思い出が、今になって復讐してくるよ〜。ごめんなさい。恥をさらしてごめんなさい。神よ。
その笑い声から耳を覆いたい。とたんにB君が絶叫する。
同志社大学法学部一回性○○君がただいま放尿していまーす!」
ぎゃあああ。やめてくれっ。思い出させてくれるな!っていうか、A君小便なげえよ!!どんだけ膀胱不満かかえてんだよ。
ちくしょー、お前らなんでそんなに主人公意識強いんだよ。「僕ら馬鹿やってまーす。世間の人が体験できないような貴重な馬鹿行為をやってまーす」って、近所に宣伝しているようなもんだ。だから、そんなけたたましい声で叫ぶことができるんだ。きっとそうだ。
馬鹿、ちんかす、うんこ!罵倒しようとしても、これくらいのワードしか出てこねーよ。
横断歩道の前では、クソうるさい地元ヤンキーがバイクの爆音鳴らしまくるし、なんかもう人間なんて大きらいだ!

くそぅ。みんなさみしいんだろ。「俺はここにいる」「俺は馬鹿やってる」とか自己PRしなきゃ、やっていけないような不安があるんだろ。問題なのは、僕にはそれができないこと。正直言ってすごくうらやましい。何も出来ない自信のない僕が、これ以上、げらげら笑って騒いでいたら、「君、将来どうすんの、それで」と、ポンと肩を叩かれそうで恐ろしい。ものすごく恐ろしい。僕には馬鹿騒ぎする権利すらない。なんにも、生産性がないから。
ああ、もう一度馬鹿騒ぎをしても、何の後ろめたさを感じないような、プライドのある人間になりたい。

なんて、自販機で缶コーヒーを買いながら鬱になっていると、エレベーターに乗ったらA君、B君、C君がそろいもそろって乗っていた。ああ、もう、何もかもがダメだ。

そういえば奥山くんには女の子との出会いが多いよなぁ。それに比べて僕は長放尿の小便男。くそー!!神様はかぎりなく不公平だ。