チョコボール

どうしてこう何もしないままに一日は終わってしまうのだろうか。
何かをなすには一日は短すぎる・・・って、こんな言い訳ばかりしてるから僕はだめなんだ!
学校の帰りに八剣伝に寄って、奥山くんと二人で酒を飲む。
「俺、子供のころからまわりにケンカ売りまくってたよ〜」と、奥山くんは笑いながら語る。
彼は非力なくせに、ヤンキーに「君、死んでみたら?」とケンカを売りまくる文学的パンク少年だったのだ。
中一のとき歓迎遠足のバスにいたずらして故障させ、入学早々に始末書を書かされたり、聖書を用いて説教してきた教師に爆笑し、「君は我が校の恥だ」とか言われたり、まさに生ける核弾頭。マンガの中から飛び出してきたようなキャラクターだ。僕は奥山くんが、いつか思い出を抱え込んで爆死してしまいそうでとても心配だ。
「いやあ、俺たぶん三十くらいで早死にするかもね、ぎゃはは!」
そういう奥山くんの奔放っぷりが、近頃の僕にはものすごく羨ましい。自分を自由に楽しんでいる感じがする。
と、考え込んでいると、隣の席に座っていたスポーツ系の団体の中の、とりわけマッチョなお兄さんが、「俺、最近チョコボール向井ってあだ名がつけられてさ〜」と談笑しているのが聞こえた。
チョコボール向井!・・・これは面白い。ナイスなニックネームだ。しかし、嫌な予感が頭の中をよぎる。
もしかして奥山くんは、なんらかの方法で隣のマッチョをからかうのでは・・・
でも、まさか、他の団体だしね、と安心しきっていたら、案の定奥山くんは、嬉しいことこの上ないといった表情で、
チョコボール向井だってさ!ぎゃっはー!」と、爆笑したのだ。
ぴーん。
空気が一瞬にして張り詰めるのがわかった。
「しばくぞ・・・」明らかに隣のマッチョさんはご立腹だ。
やばい!殴られる!
瞬間、割れるコップ、飛び散る焼き鳥、折れる前歯、警察署、などなど、さまざまな光景が眼に浮かんだが、幸いにもマッチョさんの友達が、とりなしてくれたお陰で、僕らの前歯はなくならずにすんだ。
「いやぁ、危なかったねー」
まったくだ。君といたら、命がいくつあっても足りはしないよ奥山くん。
いつか人に刺されるのではないだろうか。
しかし、彼みたいに自分に正直に生きることって、本当に大切なことかもしれない。
社会のモラルには反するけれど、それはきっと、自分にとって正しい生き方なのだろう。
自分の中に閉じこもらない生き方。自分を外に向かって発信できる行き方。
人に嫌われてもいい。むしろ嫌われることを奥山くんは楽しんでいる。
僕は、自分のみじめさを言い訳に、透明扉に囲まれたこの空間に閉じこもってばかりだ。
出て行こう。この透明扉の外の世界へ。
三山木のでっかい鉄塔を、意味もなく眺めてみた。
奥山くんの部屋で、再び酒を飲み交わしていると、奥山くんのケータイに電話。女の子だ。ファック!
帰ったら奥山くんに大アマゾンの呪いでもかけてやろう。
かけてやった。
あ〜、しかし、こんなことやってて大丈夫なのかなー、自分。