飛ばない人力飛行機

誰も俺の名前なんて知らない。寺山先生の「書を捨てよ町へ出よう」という映画を見て、じんとくる。
飛ばない人力飛行機を引きずって、僕はどこまで走り続けることができるのだろうか。
僕が小さかったころは、自分が大学生になるなんて信じられなかった。ぜったい高校生のうちに死んでいるだろうな、と漠然と思ったりした。っていうか、むしろ死んでいてほしいと祈っていた。悪の組織と戦って、討ち死にして、正義のヒーローとして人々に語り継がれたいものだなぁと小学生の僕は祈っていた。年をとり、自分がおっさんになってしまうという事実が許せなかった。若いうちに伝説の人になりたいなぁと、そんなことばかり考えていた気がする。

しかし、二十歳の誕生日を迎えた僕は、一人の戦闘員とも戦うことなく、部屋で煙草をふかしている始末だ。
ドラマチックな未来が消えて、僕の前には、繰り返される日常がずーっと続いている。そのことを悲しんでも、どうしようもないことは分かっているんだけど。

二十歳、自分に自信が持てない二十歳。
二十歳、彼女いない歴二十年の二十歳。

子供のころには、二十歳の自分はきっと、もっといろんな出来事を経験して、人に優しく自分に厳しいバランスのとれた人間になっているだろうなぁと思っていた。
だから僕は子供のときの無責任な夢を翼に乗せて、人力飛行機を必死で飛ばそうとしていた。でも結局、背負ったものが重過ぎて、飛ばないうちに翼がつぶれてしまった。それが僕が高校生のとき。
僕はいまだに飛べない人力飛行機を引きずって、毎日を生きているような気がする。
けっして飛ばない人力飛行機。夢も希望もないけれど、それでも生きていたいから、泣きべそかいて走っている。