すべては決まっていて動かないのさ

早朝、煙草を買いに行くため、昨日ランニングした道を通った。夜の名残が当たり一面を群青色に染めていた。サンダルをペタペタさせて歩いていると、ふと車道のアスファルトの上に視線が落ちた。
一瞬、古びたタオルケットに見えた。猫の死体だった。
昨日の猫の死体だった。縞模様でそれがわかった。
轢かれたんだろうか。車道と歩道の真ん中に猫は横たわっていた。
放射線状に飛び散った血痕がなけりゃ、本当にただ寝そべってるようにも見えた。なんだかそれが状況に似合わず、あまりにものん気そうに見えたので、僕は「猫っていいなぁ」と心の中で呟いた。
犬もいいけど、猫も結構いいかもしれない。
コンビニでサンドイッチを買ってから、帰り道にもう一度猫の死体を見た。まじまじと。
度胸が無いから、ひっくり返して裏側がどうなってるか確かめることは辞めておいた。たぶん吐きそうになる。
でも、こういうとき死体をひっくり返して、その裏側までじっくり眺めるのが表現者ってやつなんだろうな。
僕には無理。奥山くんなら出来るだろうか。
帰り道、ずっと猫のことを考えていた。
あのとき、僕がアンパンをあげていたら、もしかしたら猫は今頃ぴんぴんしていたかもしれない。
でも、あのとき僕はそうしなかったし、そうすることなど不可能だった。
運命ってのはほんの些細な出来事で大きくそれて行くものなのかもしれない。しかもその些細な出来事ってやつが、まったく何の繋がりも無くバラバラになって僕らのもとにやってくる。
じゃあ僕たちは他人に無理して関わらなくてもいいんじゃないかな。どうせ無駄なことなんだし。人が一人に与える影響なんて。些細な出来事が一つでも起こればぶち壊しになるかもしれないんだし。
人間とか動物とか、それぞれが勝手に人生を終わらせたり続けたりしてる。
誰も誰かさんのことなんて本当に理解できないんだし、誰も自分のことなんて理解されることを望んじゃいない。
じゃあ、もーいーじゃん。誰とも関わらなくて。 
みんな孤独なんだ!孤独でいいんだ!
空の青がだんだん薄まってくる。鳥が鳴き出した。
もうすぐ山の端から朝日が顔を出すことだろう。そうして、また一日が始まる。
僕の上にも、奥山くんの上にも、そして路上の猫の死体の上にも、同じように朝はやってくる。
猫の死体はもう片付けられただろうか。どこか遠くのほうで一日の始まりを迎えているのだろうか。
僕は買ってきたチキンカツサンドをもしゃもしゃと頬張った。