さんぽ

早朝5時、ケータイの着信音で目が覚めた。電話は友達の奥山君からだった。
「何?どうかしたの?」 「ちょっと散歩せえへん?」 「まだ5時だよ」 「いいやん別に」 「外、すっごい雨降ってるよ」 「気合だよ。そんなの」 クレイジーだ。こんな雨の中で散歩なんて・・・

僕はとりあえず出かけることにした。
近鉄の駅前で奥山君を待っていると、なぜか奥山くんは全身から水を滴らせながら歩いてきた。
どうやら、ダンプカーがはねた水をもろに被っちゃったらしい。漫画みたいだ・・・
二人で人生の不条理について語りながら、そのうちにいろんなことがどーでも良くなってきちゃって、地平線の果てまで歩こうぜー!と激しく現実逃避をしつつ僕達は歩き続けた。
突然、「もうダメだー!」と絶叫する奥山君。
僕はなんだか面倒くさくなって、さしていた傘を閉じ、路傍に生えていた雑草に切りかかった。「世の中なんて糞だー」
奥山君も傘を閉じて、ピーズのシニタイヤツハシネを歌いだした。でもその歌い方がもうヤケクソって感じで、ただ泣き喚いているようにしか聞こえなかった。くそぅ・・・
道行く人の視線が冷たい。ちくしょー僕らは既知外か!既知外なのか!そもそも朝っぱらから犬の散歩なんてしてんじゃねえ。近所のおっさんよ。
僕らはひたすらに歩き続けた。
国道から私道に入り、田んぼ道を進み、僕らはいつしか竹林の中を歩いていた。
竹林の中は雨で煙っていて、葉のあいだから雨粒がぼたぼたとこぼれ落ちてきた。
思えばだいぶ歩いたもんだ。テスト勉強という現実から逃れ、退屈な世の中を呪って、脚のおもむくままに進んできた。そう、でも、この竹林を抜けたところに僕らの答えが待ってるんだ!僕らのこの一見無意味にも見える行動にも、ちゃんと答えが与えられるんだ。ほら、あそこに見えるのが僕らの答えだ!竹林の果てには一体何があったのだろうか?

それはお墓でした。
竹林の先は墓地に通じていたのです。
奥山君は墓地に祀ってあるお地蔵さんに向かって手を合わせ、何事かを語り始めた。
人生とはやっぱり無意味なもんでしょうけど、それでも僕達は生きていかねばならないのでしょーか?
普通な人間として幸せに暮らすしか道は無いのでしょうか?
うう・・・
もう何も考えないほうが楽なんじゃない? 
でも、そしたら大人になってしまうってことで。ずっと先まで人生が見渡せるようになってしまうってことで・・・

僕は奥山君の肩をつかんで「もう帰ろうよ」と促した。実はさっきからこの墓地、おっかなくてしょうがなかったのだ。

結局こんな無意味な僕らも死んでしまうのか?
僕等がむやみやたらと悩んで頭を抱え込んでみせたって、詰まるところ無意味であって、その先には何にも無くて、ただちっぽけに死んでいくだけ・・・そういえば太宰は「苦しみ多ければ、それだけ報われること少なし」って書いてたしなぁ・・・

その日一日、帰ってから何もする気になれず、ベッドの上でごろごろしてたらいつの間にか夜だった。

テスト勉強は明日から頑張ろうと思った。