あさましかりける

夜中に突然、高校時代の友人から電話がかかってきた。
「あ、もしもし、白井だけど元気してる?」二年のときのクラスメートの白井けんすけ君からだった。
「うん。まあ、元気だよ。でもほんと、久しぶりだね・・・話すの」
少し皮肉っぽく聞こえたかもしれない。でも仕方がない。第一、僕は白井君とはそんなに仲良くなかったのだから。
高校時代も一言、二言、言葉を交えたばかりだったのに・・・今更何の用だろう?
答えはすぐわかった。

「そや、俺な、最近バンド初めてん・・・で、俺、ボーカルやるねん。青春やろ?」
白井君はぶっきらぼうにそう呟いたが、内心は浮かれまくっているのがバレバレだった。
へえ、そう。だから君は、自慢するために僕のケータイに電話したんだね?
こっちは春学期のテストを控えて青くなっているというのに!
・・・でも落ち着かなければ。苛立つ感情にふたをしつつ、表面上は笑い声をキープだ。

しかし、大学に入ってからも高校のクラスメートを捕まえて、自慢話を披露する白井君は、どことなく哀れだ。
「まあ、頑張ってよ」
そう言って、電話を切ろうとすると、白井君は必死で僕を止めて、「あとちょっとくらいいいやん」と会話を伸ばし、伸ばして、三十分で切るはずだった電話を三時間くらいまで長持ちさせた。ひい。

すっかり勉強する気をなくした僕は、隣人の安田を部屋に呼んで、日本酒を煽った。
「っていうかマジでまいったよ。昔のクラスメートに自慢話してくんなよなぁ・・・」
安田に愚痴ると、安田は「そうだね」と言って笑った。
「・・・くそぅ、どいつもこいつも、したり顔で青春追いかけやがって。そういうミーハーな奴らってムカつくよな!ほんと!」
思わず口調が荒くなる。
でも青春という名の青写真を、自分の人生というアルバムに飾ろうとして必死こいてる奴は、あさましくないだろうか。僕はそう思う。

「まぁ、人生いろいろだよ」
そう言ったきり押し黙った安田は、日本酒を注いだグラスをぐいっと傾けた。氷のぶつかりあう音が響いた。